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執筆者の写真叶望

ツノメイドと迷子の少女 第三話

更新日:2018年6月7日

「持ってきたよー!」 部屋でくつろいでいる先輩と少女の元に、腕に布を抱えた後輩がやって来た。

後輩の腕の中を覗き込みながら少女が尋ねる。 「それなあに?」 「ペスマスちゃんのお洋服。」 片方の布を先輩へと手渡し、残ったブラウスを広げて満足そうに頷いた。 「サイズも大丈夫そう!」 「あら、このスカートも似合いそうだわ。」 受け取ったスカートを少女に当てながら先輩も満足そうに微笑む。

「え、え?」 「ふふーん。ペスマスちゃんに絶対似合うと思ったんだー。」 後輩が自慢げに話す横で少女は些かついて行けていない模様。二人の間で交互に二人を見続けている。

「あら、もしかして気に入らなかった?」 「もっと大人っぽいのが好きだった?」 ふと、少女の反応を改めてみた二人は少ししゅんとした感じで少女に尋ねた。いくら自分達が似合うと思っても、少女が気に入らないと意味がないのだ。 「あ、そうじゃなくて…。私に似合うのか分からなくて…。」 「あ、なーんだ。そうだったの。」 「なら自分でも確認しなきゃね。」 先輩が少女の手を取り、後輩が少女の肩を支え、鏡の前へと少女を立たせる。 「ほら見て。お花の柄がよく似合ってるわ。」 再び、少女にスカートを当てながら微笑む先輩。鏡には花柄のシフォンのスカートを当てられた少女が映っていた。



「こっちのブラウスもほら、持ってみて。」 はい、と後輩から渡されたブラウスを受け取り、少女はおずおずと見様見真似で前へと当ててみた。 「うん。良く似合ってる。」 こくこくと二回頷いた後輩に少女は首を傾げる。果たしてこれは自分に似合っているのだろうか、それすら分からなくなってしまったのだろうか。 「(分からないことだらけ。…私は一体何が分かるんだろう。)」 じっと鏡に映る自分を見つめる少女に後輩は少し悩んだ後、先輩の耳へと口を寄せた。 「ねぇ先輩ちゃん。」 「……分かったわ。後輩ちゃん。」 後輩から何やら耳打ちをされた先輩はねぇペスマスちゃんと少女へ声をかける。 「せっかくだし、お化粧もしてみない?」 「…お化粧?」 「えぇお化粧。お化粧をしたらきっとまた違う貴女が見えると思うの。」 「先輩ちゃんはね、手先は不器用だけどお化粧とかの色選びは得意なんだよ。」 「一言余計よ。」 「はーい。」 本当に反省をしているのかは若干分かり辛い声色を発した後輩は、ここを片づけておくからいってらっしゃいと二人を見送った。 ドレッサーの前に連れられた少女は手鏡を先輩へと手渡される。


「これが今のペスマスちゃん。さて、何色にしようかしら。」 「…あの、」 「?どうかしたのかしら。」

言い辛そうに、少女が数秒躊躇う。 「…その、悲しませちゃったかなって。」 「悲しませる…あぁ。」 ぽんと手を叩き、後輩ちゃんのこと?と先輩が尋ねると少女はこくりと頷く。 「どうしてそう思ったの?」 「…私が、あまり喜ばなかったから…?」 「よく分からない?」 「…。」 こくりと頷き、俯く少女に大丈夫と先輩は頭を撫でた。


「後輩ちゃんはね、悲しんでいた訳じゃないのよ。きっと貴女に貴女が似合う姿に気付いてほしかったのよ。」 「私に…?」 「えぇ。後輩ちゃんはね、分からないのなら見つけてあげようってさっき言ってたのよ?紛れもない貴女のためによ。」 「私の…。」 ドレッサーにいつの間にか並べられた化粧道具を一つ手に先輩は少女の肩へ手を添える。



「分からないのなら分かろうとすればいい。これから気づいていけばいい。少なからず、私と後輩ちゃんはそう思っているわ。」 はい、出来たわ。と先輩が手を離す。いつの間にかほんのり色づいた自身を鏡で見つめる少女は、先程の言葉を頭の中で反芻していた。 「(分かるときがくる…のかな。)」 「お片付け終わったよー。」 「こっちも終わったわよ。」 「あ、見たい見たいー!」 ひょっこりと部屋に現れた後輩が鏡へと駆け寄り少女を見つめる。


「可愛い!先輩ちゃん色選びのセンスやっぱり素敵!…けど先輩ちゃんちょこっと口紅はみ出してる。」 「もう、そういう所だけは目ざといんだから。」 「…。」 自分の背後でわちゃわちゃとし始めた二人を鏡越しに見ながら少女はマスクの奥で微笑んだ。 「(よく分からないけど、二人が自分のために何かを選んでくれた嬉しさというのは分かった気がする…。)」



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