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執筆者の写真叶望

密着、矢嶋兄妹24時 2

「まったく、つくづく愚兄っぷりが目に余るわ。」

「手厳しいねぇ大和ちゃん。」



椅子に腰をかけようとした大和に纏はストップをかけた。

何、と大和が尋ねる前に、数回、自身の膝を叩く纒。膝の上にと言葉にしなくても伝わった。



「……。」



先程、折檻を受けたというのにまだ懲りていないのかと大和は心底呆れた。

ここでの汚点といえば、大和にとって折檻だったとしても、纒にとっては左程のものだったと言う所だろうか。仲睦まじい兄妹のじゃれ合いとしか捉えていないのである。



「まぁまぁ仲直りしよう。ね?大和ちゃん。」

「…仲直り…ねぇ。」



仲直りと言う割には声色が随分と明るいものではなくって?と皮肉めいた言葉を思わず出しそうになったが、この愚兄にいくら何を言っても無駄だろうと大和は肩を竦めながら纒の座っている椅子へと近づいた。





「これで満足?」

「う~ん。膝の上に乗ってくれてもいいのに…。」

「乗ってるでしょう?足が。」

「そうだけどさぁ。」





「昔はお膝抱っことかよくやったのになぁ。」



しみじみと感慨深くなってはいるが、大和の腿に乗せられた手つきは昔懐かしむような手つきとは程遠いものであった。





「いだだだだ!!!」

「えぇ昔はね。」

「大和ちゃん痛い痛い痛いって!」

「私も昔のことを思い出したわ。こんな手つきはしていなかったってね。」


手袋の下にある皮膚がぎりぃと悲鳴をあげる。と同時に纏からも悲鳴が上がっていた。





「ほっんと懲りないのね。呆れすぎて溜息も出ないのだけれど。」

「誤解だってば大和ちゃ~ん…。この手が勝手に…。」

「フェミニストの恥。」

「失敬だなぁ。大和ちゃんが魅力的過ぎるから抑えきれないんだよ。」



ネクタイを締め上げる大和の手をやんわりと外し、纒はいかに妹が魅力的すぎるかを語り始めた。が、端から聞く気がない大和はふんっとそっぽを向いた。


やりすぎたかなと大和の態度をみて、表には出さないもののどうしようかなと纒は考え始めた。怒らせたい訳でも喧嘩をしたい訳でもない。

フェミニストの名に恥じないようしているつもりなのに、妹の前ではどうしてもうまく行かない。一種の家族に対する甘えなのか、それとも、



「(…大和が女としての勘がいいのか、それとも単に本能的に無意識の下、察しているだけか。)」



どちらにせよ、機嫌を損ねてしまった以上、直すしかあるまいと纒は一度、大和と椅子から離れ、ベッドへと乗り上がった。





引っ張られたネクタイを緩め楽にする。


損ねてしまった機嫌を直すには時間とタイミングが重要である。

あくまでこれは、纒が長年連れ添った妹に対するやり方であるが。


しばらく距離をおいて、それぞれ干渉せず部屋で過ごし始めること数時間。

ふと、大和が椅子に深く腰をかけたその時、纒はそのタイミングを見逃さず、彼女の名前を呼んだ。



「大和ちゃん。」

「…なにかしら。」



返事を返してくれる辺り、タイミングはちょうどよかったらしい。

下手をしたら返事すらしてくれないのだからそこは一安心した纒である。



「ちょっと話したいことがあって。」

「どうぞ。」

「来てくれないかな。」

「この距離で十分でしょう。」

「見てもらいたい物もあるから。」

「…。」



腕を組み、しばらくじっと動かなかった大和だったが痺れを切らしたのかベッドの横まで足を進めた。



「で、何よ見てもらいたい物って。」

「これなんだけど。」



大和が身を屈めようと、重心が前に傾いた時、纒は支えになっている大和の腕を引っ張った。支えを失った大和の身体はそのまま纒の方に倒れ込んだ。





「っー、」

「捕まえた。」



捕まえた彼女の身が起きないようにやんわりと押さえる纒。



「…今度は何。」

「大和ちゃん疲れただろう。少し休むといいよ。」

「ベッドにしては寝にくいベッドね随分と。」

「そう言わないでくれよ。ね、本当に悪かったよ。」

「……。」





「ね。今は許してくれなくていいからさ。」

「…少ししたら起してちょうだい。それまでは精々ベッド役、頑張ったら。」

「ははっ。分かったよお休み、大和ちゃん。」



完全には機嫌は戻りきってはいないようだが、自身の上で力を抜き始めた大和に、纒は起きた時はどうしようかなと次なる作戦を頭の中で立てていた。



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