「名前が分からないならペスマスちゃんって呼んでもいーい?」
「安直すぎない?」
メイド二人と少女の奇妙な同棲生活が始まった。
自分の名前も分からなくなってしまった少女の呼び名について、そのままの姿でペスマスちゃんと呼び始めた後輩に対し、先輩が呆れたように呟くも、
「いいですよ。ペスマスちゃんで。」
「だって先輩ちゃん。」
ふふんと勝ち誇った様な…と言っても目を閉じているため、眠そうにしか見えない後輩にはいはい、分かりましたと先輩は部屋へと足を向けた。
「ご主人様の住んでいる所はとても広いから、迷子にならないように気を付けるのよ?ペスマスちゃん。」
「分かりました。」
「後、そんなに畏まらなくたっていいのよ。」
「先輩ちゃんも言ってたけど、悪い大人の人なんていないんだから、もっと肩の力を抜いてリラックスリラックス。」
ぽんぽんと肩を叩く後輩にはいと返事をしそうになった少女は慌ててうんと返事をし直した。
「さぁ、ここが貴女の部屋よ。」
開かれた扉の先、明るい光が差し込む部屋に、些か眼が慣れなくてマスク越しに目元を押さえる。
そこは、先程の物がたくさん置かれていた部屋とは打って変わって物こそは少ないが決して寂しい部屋ではなかった。
「ここ、」
「気にいった?」
「貴女にピッタリだと思う部屋を選らんだのだけれど。」
ロココ調に整えられた部屋は、淡い光が入り込んでどこか温かい気持ちに包まれる。
不思議と、そこか懐かしい気持ちに駆られるような、そんな思いに浸って、うん、と少女は呟いた。
「分からないけど、落ち着く…。」
「そう。なら良かったわ」
先輩がにっこりと微笑むと、後輩はほらほら座って座ってと少女を椅子に案内する。
「色々あって疲れちゃったでしょう?きゅーけーきゅーけー。」
床にペタリと座り込んだ後輩は少女を見上げるように寄りかかった。
「後輩ちゃんが休む必要はあるのかしら?」
「んー…、えへへ?」
本日何度目の呆れた溜息だろうか。はぁ、まったくと先輩が息をついたが、気を取り直したように手をパンパンと二回叩いた。
「ぺスマスちゃんが今日からここで過ごすんだから、分からないことがあれはちゃんと私か後輩ちゃんに聞くようにすること。分かった?」
「分からないこと…。」
「気になったことがあったらいいんだよなんでも聞いて。」
「気になったこと…。」
何かあっただろうかと二人の顔を交互に身ながら小手りと首を捻る。少女の反応と共に、メイド二人もこてりを首を傾げる。そしてあ、と少女は思い出す。
「お姉さんたちはどうしてツノが生えてるの?」
出会い頭、二人の頭部から生えているツノに大変驚いたのを。
「何故私たちに、」
「ツノが生えているかって?」
キョトンとしながら数回各々のツノを撫でた後にメイド二人は、
「どうしてって言われても…ねぇ先輩?」
「そうねぇ…。生まれつきこうだから、としか言えないわね、後輩ちゃん。」
ねー?と顔を見合わせた。
「生まれつき?」
「そう、生まれつき私は髪がピンクで白いツノが生えている。同じように後輩ちゃんもよ。同じ生き物でも皆が一緒って訳じゃyないのよ?ほら、私たちだってツノの大きさも違うもの。」
先輩が後輩のツノを指差す。確かに、二人のツノを比べると大きさも色も違う。
「みんな違うんだ。」
「それでいいのよ。皆が同じだったらそれこそつまらないものよ?」
「…。」
分かったような、分からないような、少女が再び首を傾げると、先輩の手が少女の頭を撫でた。
「大丈夫。いずれペスマスちゃんにも分かるときが来るわ。」
おまけ
「気になるなら触ってみる?」
はい、どーぞと後輩は自身のツノを少女に差し出す。
「え…触ってもいい、の?」
「うん。いいよー。」
「…じゃあ。」
おそるおそる少女が後輩のツノに手を伸ばし、指先で一撫で。指先に伝わるのは不思議な感覚。
今までに触った事のない感触に突いたり掌で撫でてみたりとしてみる。
あまりにも真剣に撫でる物だからその姿に後輩はくすくすと笑った。
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