「天気もいいから今日はお庭に行ってみましょうか。」
先輩の一言でぱぁと顔を輝かせる後輩と、お庭?と首を傾げる少女。嬉しそうに立ちあがった後輩はお弁当用意しなくちゃ!と早々と部屋を出て行った。
「まったくもう。お話は最後まで聞かないと。ねぇ?」
「…あの、お庭って、」
「ご主人様のお庭よ。と、いっても好きにしていいって言われているから実質私たちのお庭かしら。綺麗なお花が咲いているの。きっと気に入ると思うわ。」
先に行っていましょうか。そう言った先輩は少女を連れて外へと足を向けた。外に行くまでに沢山のドアを見かけた少女は改めてここは一体どこなんだろうという考えが頭に過った。広い屋敷なのだろうけど、どこか人が本当に住んでいるのかと疑うぐらいの無機質さに思わず体を震わせる。
しかし、先輩が発した声に我に返り、その考えは少女の目に飛び込んできた景色によってすっかり頭から抜け落ちた。
「わぁ!」
ぽかぽかとした日差しが差し込む緑の箱庭。鳥たちがくつろぎ鳴き声がまるで子守歌にも聞こえた。
「きれい…。」
「でしょー?」
ひょっこりと顔を覗かせた後輩に驚く少女。
びっくりした?と後輩はあっけらかんと答える。
「わっ!」
「おかえりなさい。」
「ただいまー。お弁当箱持って来たよー!」
早くいつもの場所に行こうと後輩が少女の手を引っ張り、こっちこっちと足早と歩き出す。
少女が連れて行かれた先、少し開けたそこは草花に囲まれて幻想的な場所だった。
「座って座って。」
「もう。そんなに急がなくてもお庭は逃げたりしないわよ。」
先輩後輩に挟まれて、少女は連れられた場所へと腰を下ろす。
少し離れたその先で、先客だった鳥たちが木陰から様子を伺っている。
「あの子たちもお気に入りの場所なのよ、ここ。」
「とりさんいっぱいでしょ?」
「うん…。悪い事、しちゃったかな?」
「大丈夫よ。慣れてきたら自分達から寄って来るわ。」
「とりさんたちのごはんもあるから大丈夫。あとでみんなでたべよーね。」
はい、できたとほぼ同じタイミングで先輩と後輩が声をあげた。二人の手の中にはそれぞれ花冠が乗っていた。
「わぁ…。すごい。」
「ここに来るとしょっちゅう作っちゃうのよね。流石に慣れちゃったわ。はい。」
どうぞと先輩が作った花冠を少女の頭に乗せる。とても似合っているわと微笑むと少女は軽く指先でそれに触れた。
「こっちも被ってみて?」
今度は私の番と言わんばかりに後輩が花冠を傾ける。先輩が少女の頭から花冠を外すと、今度は後輩が少女の頭の上にそっと乗せた。
「かわいい。」
うんうんと頷いて後輩が先輩の前へと花冠を見せつける。
「ペスマスちゃんにはこっちの方が似合わない?ねぇ先輩ちゃん。」
「あら後輩ちゃん。淡いピンクのお花の方が、ペスマスちゃんには似合うと私は思うわ。」
二人して作った花冠を少女に身に着けてもらいたいらしい。珍しく互いに譲らないとじっと見つめあっている。
「…しょうがないわね。」
「…そうだよね。」
くるりと二人が少女に目を向ける。見つめられてぴんっと背筋を伸ばした少女に二人が問いかけた。
「ペスマスちゃんはどっちがいーい?」
「好きな方を付けていいのよ?」
大人げなく、少女の目の前に二つの冠が傾けられる。え、えっと戸惑う少女に二人はにこにこと笑みを浮かべているのみ。
「選ばれなかったからって怒ったりしないわ。」
「ペスマスちゃんの好きなのを選んでね。」
そう言われてもと少女は頭を悩ませた。どちらの花冠も可愛らしいものだし、一つに選ぶなんてと二つの花冠の間で視線が行ったり来たりを繰り返した。
えっと…と悩んでいる少女耳元で小さな鳴き声が一つ。ちらりと鳴き声の方に視線を動かした少女の手元にかさり、と何かが触れる。
「!」
何かに気付いた少女は二人へと向き直り、二人の手元に納まっていた花冠と受けとった。
「これは先輩ちゃん。」
かさりと少女の手に納まった冠は先輩の頭へ。
「こっちは後輩ちゃん。」
同じように後輩の頭の上にも花冠が添えられた。
「そして、こっちは…。」
最後に、少女が自分の頭の上へと、新たな花冠を乗せた。
「私はこれ。これでみんなお揃い。ね?小鳥さん。」
少女の指先に止まった小鳥が小さく鳴きだした。少女の頭に納まっている花冠は、見かねた先客たち、小鳥たちが編んだものらしい。
「あらあら。」
「…お揃い…えへへ、皆お揃いだって先輩ちゃん。」
「そうねぇ…。お揃いなら…ね。後輩ちゃん。」
小鳥と戯れる少女を横目に見ながら、先輩と後輩は笑みを浮かべあった。
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