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執筆者の写真叶望

「夏の君」第一話

あの夏、ぼくはひまわり畑で、君と出会う。




熱い日差しが差し込んでいる日だった。お盆休み、この日はぼくの家でも親戚が集まっていつもより一層賑やかになっていた。

あの時、ぼくはまだ野原を駆け回るような少年だった。すなわち、親戚の集まりと言えど、家の中でじっとしているなんて当時のぼくには到底我慢できない事だった。

人の目を盗んで、ばあちゃんが編んでくれた麦わら帽子をぎゅっと被り、家を抜け出した。

夏の暑さに負けないくらいにそこら中を走り回って遊びに出かけた。

家から少し離れた所に大きなひまわり畑が広がっている。僕は迷わず、その中に潜り込んだ。ひまわり畑を駆け抜ける。右を見ても左を見ても背の高いひまわりに囲まれて、まるで迷路を中を走っている様だった。けどぼくはこの迷路を熟知しているから迷うことなく、畑を抜け出した。

しばらく走っていると、耳にミンミンとセミの鳴き声が聞こえてきた。

しまった。せっかく抜け出してきたんだから虫取り網と籠も持ってくるべきだったと後悔したぼくだったが、すぐさま気持ちを切り替えてセミを捕まえることに夢中になった。せっかく捕まえることが出来たんだから誰かに自慢をしたいところだけど、このまま家まで戻るのも面倒くさい。どうしようかと頭を搔いた時に僕は気付いた。



ない!ばあちゃんが作ってくれた麦わら帽子がない!



走っている内に落としたことを気づかなかったのか。捕まえたセミなんか目もくれず来た道を引き返した。来た道を引き返しても、麦わら帽子は見つからなかった。

残りは、あのひまわり畑。

迷路のようなひまわり畑にぼくはまた突っ込んだ。ぼくが通って来た道は確かこっち。

記憶を頼りに走っていると、




見つけた!ぼくの麦わら帽子!



ひまわりの根元にちょこんと落ちていたぼくの麦わら帽子。拾おうと手を伸ばすとぼくの手よりも早く別の手が伸びていた。



白いワンピースの裾がふわりと揺れ動くのが目に映った。

ぼくは視線を上へと上げていった。



土埃を付いた手で掃いながら帽子を拾い上げたのは、



頭がひまわりの女の人だった。

ぼくは目を奪われた。周りには何本ものひまわりが咲き誇っているのに、何故かその帽子を拾ったひまわりに。

異様な光景であるはずなのに、よく考えたらひまわりが独りでに歩くはずなんてないのに。

動けずにじっと見ていると、



「ぼくの?」


麦わら帽子を傾けむけながら問いかける声にぼくは頭を上下に振った。


「そう。見つかってよかったね。」


ぶんぶんぶんとぼくはまた頭を振った。じんわりと手に汗が滲み出ていた。思わずズボンをぎゅっと握りついでに汗を拭きとる。

だけど眼だけはひまわりさんを見ていた。そしてかさりと頭に感触。



「もう落とさないようにね。」

顔を覗きこまれながら言われたぼくは、思わず麦わら帽子をぎゅっと被りなおした。

先程までそんなことなかったのに、身体がぼわっと熱くなった。どきどきどきと心臓の音がうるさかった。走ったせいじゃない。この夏の暑さのせいじゃない。

幼きながらもませていたぼくはひまわりさんのせいにした。

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