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執筆者の写真叶望

「夏の君」第三話

更新日:2018年8月9日

昨日は一方的にひまわりさんに押し付けちゃったけど、本当に来てくれるだろうか。




朝、目が覚めてからのぼくの頭の中はそれでいっぱいだった。

昨日、恥ずかしくて逃げ出してしまったぼくが一方的に取りつけた約束。





どきどきしながらひまわり畑に向かうと、ひまわりさんはそこに立っていた。

風で飛びそうになった僕の麦わら帽子を押さえている。

僕に気付いたひまわりさんは、すっと帽子を下ろした。




「こんにちは麦わら君。」




麦わら君とは…ぼくのことなのだろう。




「帽子って被ったことないから勝手に被っちゃった。これ、返すわね?」




ひまわりさんが手にしていた麦わら帽子を僕に被せてきた。

初めて会った時と既視感を覚えて思わずぼくはあの時のように深く被りなおした。

照れているのがばれないようにぼくは咄嗟に、




似合ってた。




と口にした。




「ありがとう。」




喜んでいるのか、少し声色が明るい。心なしかさっきより花弁が開いているようにも見えた。

なんだか子供の様だった。今思うと彼女は純粋に子供の様に喜んでいたのだと思う。

その当時のぼくはというと、なんだか子供っぽいひまわりさんを見て、逆に大人ぶろうとしていた気がする。

子供が背伸びをするようなそれと似ていた。




「背、伸びたわねねぇ。」




思わず、どきりとした。考えていることがひまわりさんには筒抜けだったのだろうかと思った。





「最近、日差しも強いからぐんぐん大きくなってきたのよこの子。」




…その言葉で、ぼくに向けられた言葉じゃないってことはすぐに分かったけど。

すぐ近くに生えていた一本のひまわり。ひまわりさんが手のひらひらひらと前はここまでしかなかったのよと言っていた。






「この子はまだまだ大きくなるぞって言ってる。頑張り屋さんね。」




ひまわりの花も背丈を気にするのだろうか。

まるで今の僕のようだ。思わず隣に立つひまわりさんをチラリと盗み見る。

今の僕はひまわりさんの胸下ぐらい…。悔しいながらもまだまだ伸びるぞと言っているらしいひまわりより背は低い。

いつかあのひまわりのようにいつかひまわりさんを見下ろせる日が来るのだろうか。

…なんだろう、見下ろすというのはあまり良い表現ではないな。

なんだだろうか…。あぁ、いつかひまわりさんがすっぽりと僕の腕の中に納まる時が来るだろうか。

これがいい。うんうん。

なんて一人納得していると、





「この子はまだまだ伸びしろがあるって所かしら。」



その横でまだ花を咲かせていない蕾を指先で計りながらひまわりさんが呟いた。

ぐんぐん伸びようとしているその横で控えめにしているらしい。




「この子は恥ずかしがり屋さん。」




麦わら君みたいねとひまわりさんが笑いながら言ってなんでと僕は聞きなおした。

今思えば、聞きなおした時点でひまわりさんの掌の上で転がされること間違いないはずなのに。




「この子は背丈もちょうど麦わら君くらい。そして蕾を合わせてくれない。恥ずかしがって麦わら帽子を深く被りなおす君と一緒。」




…あぁ、ぼくはまだまだ子供だったらしい。 敵わないなぁ。

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