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  • 執筆者の写真叶望

夏の君「第二話」

更新日:2018年8月9日

次の日、ぼくはまたこっそりと家を抜け出していた。

向かう先は、あのひまわり畑。昨日のひまわりさんにまた会えるかもしれないなんて小さな淡い期待を胸に抱いて。

ひまわり畑の目の前に着いて、ぼくは思った。

この広大なひまわり畑でひまわりさんを探すなんて出来るのだろうか。

否、出来るはず。だって帽子だって見つけ出したのだからと、当時のぼくは大した根拠にならない自信を持ってひまわり畑の中へと足を踏み入れた。

道になっている柔らかい地面に足を取られそうになりながらもぼくは走り続けた。





しばらく走っていると二手に分かれている道の先、右側の方にひまわりさんの後ろ姿が目に入った。




いた!




一気にぼくの心が弾んだ。しかし悠長している内にひまわりさんの姿が見えなくなりそうになった。急いでひまわりさんの後を追う。ひまわりさんが曲がった方向に僕も曲がろうとしたのだが、

その頃のぼくの背丈だと下手したらひまわりの葉がべしりと顔に命中するなんてしょっちゅうだった。

なので急に曲がったぼくはそこに大きなひまわりの葉があるなんて思わなくて、べしと顔に命中した。驚いたぼくが後ろにひっくり返ってるとひまわりさんがどんどん奥へと進んで行くのが見えた。





ふと、ひまわりさんがピタリと止まって、こちらに振り返った。





ぼくは転んでいる姿を見られるのが恥ずかしかったのか、慌てて葉の陰に身を潜めた。どきどきしながらしばらくそうしていてから、ぼくはそっと顔を覗かせた。

そこにひまわりさんの姿は見えなかった。どうやら見つからなかったらしい。けど急いで追いかけないとまた見失ってしまう。ぼくは急いで立ち上がって再び走り出した。




急げ急げ!今ならまだ間に合うぞ!




そう思ってぼくは運動会の徒競走の時の様に思いっきり走った。ぜーはぜはーと息絶えてになって思わず立ち止まる。

おかしい。ひまわりさんは歩いていたはずなのに今度は姿さえ見えない。そんなに距離が開いたはずないのに。ただでさえ、この道はさっきと違って一本道なのに。

きょろきょろとぼくが当りを見回していると、




「わっ!」




びくっと驚き思わず尻餅を付いたぼくにひまわりさんはくすくすと笑っていた。





ひまわりさんもひまわりに紛れて隠れていたなんて気付かなかった。




「びっくりした?」




イタズラが成功した子供の様に喜んでいるひまわりさんに悔しくなったぼくはむっと唇を尖らせた。





精一杯の強がりだったのだけれどひまわりさんにはあま通用していないようでごめんごめんと謝って手を差し伸べてくれた。

小さな仕返しと思ってぼくはぎゅっとひまわりさんの手を握った。今日は帰るまで離してやるもんかというぐらいにぎゅっと。

でも、ひまわりさんはいつから僕に気付いていたのだろうか。うまく隠れた筈なのにと聞いてみると、




「ひまわり達が教えてくれたのよ。昨日の麦わら君が隠れてるよって。」




だからかくれんぼしたのって笑って言っていた。

ひまわりさんはひまわりと会話が出来るらしい。だからぼくがこの畑に入った時から気づいていたのだと。最初っから気付いていて、あえてぼくの動きを見ていたようだ。





見上げると、周りのひまわりが囃し立てている様に思えてしまって、ぼくは堪らなく恥ずかしくなり、

居た堪れない気持ちになったぼくは被っていた麦わら帽子をひまわりさんに押し付けた。




明日、また来るから持ってて!!約束!!




ひまわりさんの返答を聞く前にぼくはひまわり畑を走り抜けた。

早く家に帰って水でも被ってしまおう。そうすれば、この赤い顔だってどうにかなるさと。

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